なるほど、エロスとはこういうものか、と思った。
ミライフォン(要はスマホ)が当たり前になった世界で、あえて「電話をする」以外の機能をとっぱらった携帯電話「もしメカ」の販売員であるてるみさんと、その周辺をうろうろする中学生、鈴太朗を主軸として、2ページ完結で展開していくフルカラー漫画。
普段から、このネット全盛の時代に生まれてよかったなあと思っている私としては、こういう懐古厨的な設定はあまり好きではない。それで敬遠していたのだけど、もののはずみで買ってしまったので、読んだ結果、心配していたほど懐古厨によっているわけでもなかった。作中にはツイッター(作中の名前ではトモッター)をネタにしたものもよく出てきて、その扱いも概ね好意的。登場人物は全員、いちおうそれぞれの葛藤をかかえてはいるものの、結局はみんながみんな地面から半分足が浮いているじゃないかという非現実的な善良さで、その緩さが心地よい。話にとりとめはなく、人間的な成長も特にない。水沢先生特有の丸い顔とか半開きの口とか、妙にディティールの凝ったミライフォンの造形とか、あるいは「女性ファンを食い散らかすためにトモッター(いわゆるツイッター)を始めた」と公言する人気漫画家のパク田コピえもん先生のぶっとんだ発言とか、謎の生物くろちゃんを偏愛するてるみさんとか、とにかく絵柄が可愛い。話はとりとめない。そしてなんだか、エロい。
エロい。(2回め)
どこがエロいって、自分の容姿が面食いのパク田先生のお眼鏡にかなうという自信がなく自撮りのエロ写真をミライフォンのなかに貯めていく小保山さんも、そりゃエロい。エロ動画を見る方法を無くした鈴太朗が探し求める昔懐かしい紙のエロ本もそりゃもうエロい。しかしなんといっても「てるみさんがくろちゃんに抱きつくシーン」のエロスのほとばしりよ。でっかく黒い塊にそえられるなんともあやふやなお手てがたまりません。そのくろちゃんが交尾していたとショックをうけるてるみさんを見るときのなんともいえない加虐心よ。そしてそれ以降父母くろちゃんが出て来るたびに「彼らが交尾ってどうやって…?」とストーリーを追う頭の隅のどこかをよぎりつづける下世話な好奇心よ。ちなみに一番「うわっ!」ってなったのは、CALL.22でくろちゃんの子供が「めりっ」てなったところです。
裸も出てないのにエロい。エロいこともしてないのにエロい。ていうかむしろ人外なのにエロい。なんか、花のズボラ飯もそりゃあエロス押してましたけど、顔芸やってましたけど、水沢先生の真骨頂はそういう直接的なところにはないというか、この御方の実力を私はまだ全然わかっていなかったんだなあって思いました。ほどよい硬さのもの、つまりはほどよい柔らかさのものが少しへこむ、へこまされるという皮膚感覚の、なんというエロス。
この本見た時は、正直、花のズボラ飯の続き出せよーって思ったんですが、いいです、これで。いや出してくれてもいいけど、これも出し続けてほしい。そしていつかジブリで映画化してほしい。以前、宮崎駿監督の映画作りについて「ストーリーのメインラインはいきあたりばったりなのにディティールがすさまじすぎてそれに気づかせない、ディティールこそが彼の書きたいものだから」的な意見を読んだことがある気がするんですが(押井守だったような気がするけど未確認)、なんかそれを思い出しました。監督違うけど「となりの山田くん」的な感じでさ。大スクリーンでくろちゃんに抱きつくてるみさんと、抱きつかれて少しだけへこむくろちゃん…ああ観てみたい!