コナンは本編コミックスを一度も自分では買ったことのないうっすいファンですが、映画だけは観ています。コナンの映画は私のなかで往年のハリウッド枠というか、多少のあたりはずれはあれど一定水準以上の面白さは提供してくれるという信頼感を寄せているシリーズです。
近年で一番好きだったのはから紅の恋文(ラブレター)でしょうか。ゲストキャラの急な恋愛軸と事件の根幹に関わる部分の恋愛軸がうまい具合にかみあってて、語らずして語る感が、古風な世界観ともマッチしていて非常に秀逸だったと思います。
主題歌もよかった。
さて今年。安室がフィーチャーされる映画だという事前情報はうっすら知っていたんですが――
面白かったんですけど、よくよく考えるとちょ、待てよっていう。
以下、めっちゃネタバレします。
結論からいうと
ガチで全部安室のせいじゃねえかっていう。
安室のなにが問題か
今回のコナン映画もまたあちこち爆破されててるわけですが、もちろんそれで死人が出たり、その建物というのが世界各国の要人が集まるサミット会場だったので、会場変更とかおおごとになったり、会場変更はしたけど結局そこも危ないとかいう話になって要人たちが避難を余儀なくされたり、さらにはIoTテロとかによりまったく事件に無関係な人の家電製品がいきなり火を吹いたりそれで怪我人が出たりしているわけです。死んだのは警察公安の人たちだけで民間人に被害が出なくてよかったとか言ってますが彼らにも家族がいるし、各国の要人を危険にさらしたとか普通に国際問題ですし、一般市民がテロに巻き込まれたとか体の傷はもちろん心の傷も深いわけで、さらには壊された家電は誰が弁償してくれるんだよって話ですよね。ちなみに爆破されたのは公共施設なので、もちろん修繕費用は税金から出すのでしょう。
そんなはかりしれない被害を出した今回の事件。その犯行動機というのが、直接的には羽場二三一(はばふみかず。面倒なので以下ふーみん)という男が、安室との面会直後に自殺したという過去に起因します。ふーみんと犯人は、その職務の関係から肉親以上の深い精神的つながりを持つとかなんとか言われており、そのふーみんが警察公安により自殺に追い込まれたと感じた犯人は、もともと持っていた警察公安組織への反感をさらに強め、己の信じる正義をまっとうするために警察公安の威信を地に落とし彼らの強大すぎる権力を弱めようと、テロを計画。
もちろんそのテロは失敗し、犯人は逮捕され、公安の威信は保たれるわけですが……
最終的に判明したことにはふーみんは実は自殺してなくてめっちゃ生きててむしろ優遇されてて、それらはすべて安室のはからいで知っていたのも安室だけ。
実は自殺してないよーうまくやっとくよーって安室が犯人に連絡さえしておけば、この事件まるまる起こらなかったじゃねえかよ。
ガチの連絡でなくても、せめてほのめかしておくとか、姿をチラ見させておくとか、色々やり方はあるでしょうよ…。
だってこうなるとはわからなかったって意見もあるでしょうが
もちろん、実際に事件を起こしたのは安室ではなく、犯人です。ふーみんが生きているのを隠したせいでこんな大惨事になるとか、神ならぬ身にはわかるはずもないでしょう。
でも、その人に対し”肉親以上の深い精神的つながりを持つ”存在がいると知っていて、自殺に追い込んだかのような状況に見せかけたまま放置するとか、ここまでじゃなくても相手が自分たちに深い恨みを抱くって想像つかねえのかよっていう。
人の恨みをかっていいことなんか何一つないですよ?
人の心の機微に通じていないにもほどがある。
さらに、事前に予測できなくても、せめて、ちょうど警察公安に被害が出るタイミングで事件が起こった際に、公安に恨みがある人がいるとか考えないの?
考えなくても、そんな複雑な状況下で、なんで因縁があった相手をわざわざ自分から企みに巻き込むの? ばかなの?
ていうか、暴れた司法修習生には監視をつけるのに、協力者まで抱え込んで違法捜査に手を染めた検事はノーマークなの? ……ばかなの??
ちなみに、犯人に対してふーみんが生きているという事実を連絡することはできなかった、というまっとうな理由があればまあ仕方ないとは思うんですが、最大限好意的に解釈しても、ふーみんの生存を黙っていた理由というのが、検事の立場の人間が、警察公安の領域である協力者を使った違法捜査に今後手を染めないようこらしめるため黙ってたとかいうクソ理由。「あなたには違法を使いこなす力がない」とかなんとか言ってたけど、警察公安がそういう力を持たせないように動いているから持てないんでしょ? 要は、自分たちの権力領域を侵犯してきた相手をこらしめるためにいやがらせしたってことでしょ? つまりは、安室が自分たちの権力基盤を守るためにやったことがテロを引き起こしたんじゃないんでしょうか…?
コナンくんもあてにならない
そんなクズい安室を前にして、いつもは冴え渡る頭脳を誇るコナンくんですが、安室のことは一切責めません。いっぽうで、無関係の人も巻き込んだテロをしてしまったことに悔悟の念を感じる犯人に向かって他人を虐げる正義なんか正義じゃない!とかかっこいいこと言ってました。
それ、後ろでドヤ顔してるやつに言ってやれよって気分でした。
正直、反省してるぶん、犯人のほうがまだ同情の余地があるんですけど。
映画全体としては面白かったです
ここまで愚痴ってますが、映画としては面白く観ました。逮捕から刑事訴訟までの流れとか、普通は知らないようなことが丁寧に描かれていて、勉強になったなあ!と思います。子供向けアニメのくせに、というか、子供向けアニメだからこそわかりやすくてよかったです。
また、クソ無能っぷりをさらしてくれた安室も、終盤のカーチェイスからのコナンくん掴んでーの鉄砲バキュンバキュンみたいなところはめちゃかっこよかったです。カーチェイスのシーンで車の動きではなく運転席の安室にカメラがあたりっぱなしなあたり、ターゲットがどこであるか非常にはっきりした映画だったなと思いました。
さらなる裏事情を考察
ちなみに、話に絡むようで全然からまなかった女弁護士がいたんですが、彼女は結局なんだったんでしょうか。犯人はもしかして彼女?!と思ってましたが全然違うし。その割にふーみんとの関わりが妙に濃いし。いや設定上は濃いんですけど、その割には濃さを感じさせるシーンやセリフがほとんどなかったし。山場でなんか直接ストーリーに関係なく特に前振りもないようなことをかっこよく言い捨てて去っていくし。
で、思ったんですけど、もともとは彼女が犯人という流れだったけど、事務所NGとかで急遽犯人を変更したとかかなと。
それだと、話の歪みの理由もわかるんですよ。
相手が検事、しかもけっこう立場の高い年かさの検事とくれば、多少なりとも裏事情にも通じているだろうになんでタイミング見て教えてやらないのよって思うんですけど、民間人なら事情は違いますよね。弁護士、しかも若くて公安事件ばっかり扱っている弁護士とくれば公安に対し敵対的感情を抱いている可能性があるから、政府の裏事情を明かせないという判断もわからなくはないですし。
犯人が検事だからこそふーみんは自分の協力者だという助命嘆願が警察公安に対しできたわけですが、弁護士の立場では、違法捜査を助手にやらせていたと警察に言えるわけもない。もちろん、ふーみんとしても、警察も検事のことならばと見逃してくれるかもしれないけど民間人である弁護士がやったこととなると普通に有罪になってしまうから、せめて彼女だけでも、と、盗みに入った理由を黙秘する理由もより自然に成立する。さらには、弁護士もふーみんも双方黙っていたがために公安側でふーみんの人的繋がりを把握できなかったのも当然ということになり、ふーみんが自殺すること(したように見せかけることで)で公安に深い恨みを抱く人物ができてしまうということを予測できなかったという言い訳も成り立つわけですし。
そもそもふーみんがゲーム会社に盗みに入ったってのも、検事が指示したとなると公安が口出してる事件ならそれ公安にやらせればいい話じゃないかなとか、盗みに入らなくても証拠品のPC押収すればいいだけの話だろって思うんですよね。それを、民間の弁護士が、公安と戦うために、公安と結託しているゲーム会社側が隠している証拠を探し出そうとして盗みに入ったっていうとすごく筋が通る感じ。さらには、女弁護士は直接そういう指示は出してないけど、公安の圧倒的権力を前に本来ならば無実(あるいは軽微な罪)である依頼人が有罪(重罪)にされそうで悩んでいる彼女を見て、ふーみんが正義感を発揮して盗みに入った、とかさ…
ちなみに正義感といえば、正直、ふーみんについては、自分が裁判官になれなさそうな状況で「それじゃ正義が行えない!」と逆ギレして他人に詰め寄った危ないやつという印象しかなく、好感度ゼロです。劇中でふたりも彼の「正義感」とやらに信頼を抱いていますが、寝技(両刀)でも使ったんじゃないかと疑いたくなるレベル。そうでなければ、この世界のひとたちってちょっと発想が危なっかしいねとしか。司法修習生の際にふーみんが暴れた理由が、実は女弁護士を守るためだったのだー!みたいな感じだったらまだわかるんですけど。で、自分を守ったために司法の道を断たれたふーみんを、せめてもの償いにと助手に雇うも、公安から危険人物である彼を解雇するよう強要され、女弁護士は彼を守るため彼を雇い続けることに目をつぶってもらう代わりに公安の協力者となることに同意したのだった…とかどうよ。(妄想になってきたのでここらで終わり)
もうひとつだけ言わせてくれ
ちなみに安室の無能っぷりとは全然関係ないんですが、「IoTテロ?!」「IoTテロとはね…」ってコナンくんの推理にみんなしてびっくりしてたシーンにびっくりしました。
はじめの爆発でガスの元栓をネット越しに開いた時点ですでにIoT狙いだったのに、なんでみんなして改めてびっくりしてるんだよ…と。違法だ合法だ違法のツケは違法で云々言ってたけど、そういう権力闘争に夢中になりすぎて、事件のことをちゃんと考えてたやつ、実はひとりもいないんじゃないのか。
まとめ
なんか色々書きましたが、つまりは、社会人たるもの、ひとりよがりに陥らないでステークホルダーへの情報共有はちゃんとしておけよということかなと。
とくに、立場が高くて強い権力を持っているひとがそれを怠ると色々悲劇が起こるからね! というね。
適切な相手への適切な情報共有もまた、仕事のスキルのうちなんだぜ安室さんよぉ…
あ、念のためもう一度書きますが、安室のドヤ顔には多少不満がありましたが、映画全体としては面白かったです。アクションシーンの安室さんはもう一度観たいね! カジノタワーは出た瞬間に今回のグランドフィナーレ用爆発案件てすぐにわかったのでなんでみんながわざわざそこに避難していくのか不思議でならなかったですけど、そういうお約束をひとつひとつ消化するのを、数えてゆくもいとをかし。来年も観るよ!