「先生の白い嘘」で話題になった鳥飼茜の最新作。
自分は30歳までに死ぬから、自分のことを題材にした小説を書いてほしい、と言った男友達「中島淳」のことを小説に書き文壇デビューした加治理津子だったが、デビュー作以降新作書けず、専業主婦として生きていこうと夫の「野田一史」と仲良く暮らしていたが、子供を作りたい夫に対し隠れて避妊用のピルを飲む日々だった。そんななか、中島が30歳を手前に自殺する。中島の死の責任を感じる律子だったが、いっぽう中島は死ぬ前に8人の女にプロポーズのメールを一斉送信しており、それぞれの女たちもまた中島が死んだのは自分のせいだと考えていた。
理津子の作家性に惚れ込む若い編集「小出駿平」に促され、理津子は中島の死の理由に迫っていく……
という話。
これを読んでいるとき、作中に出てくるのとまさに同じ名前のお茶を飲んでいたので
ついつい親近感が湧いて既刊全巻を読み進めてしまったのだが、正直疲れただけだった。
登場人物がことごとく嘘つきだらけ
人間は1日200回嘘をついているとか(200回も人と会話していない場合はどうなるんだろうと思ったが…)、いや1〜2回だとか色々な説があるが、ともあれ、嘘をついたことのない人間はいない。
確かにそうなのだが、しかし、こいつらはさすがにつきすぎだろ。
先にも書いた通り避妊ピルを服用していることを理津子は夫に隠しているし、夫の野田も妊活に積極的な理由が「子供が欲しい」ではなく「理津子にお母さんになってほしい」という、なにか心の闇を感じさせるものである。(とはいえ野田は発想がキモいだけで本心を正直に言っているだけマシとも言える)
自殺済みの中島については当然隠しごとだらけでそれを追っていくのが本作の主筋だからまあいいとしても、中島を取り巻く女たちも女たちで謎めいた中島に振り回されるというより中島が謎めいているのをいいことに自分も嘘をつきまくり、周囲を騙しまくる。
唯一の希望であった直情的な性格をした若き編集・小出も、押しかけ彼女に冷たいとか、上司に話を通していないのに理津子に取材をさせていたなどは、彼なりの編集的な使命感というか野心ゆえということで話の進行上まだ受け入れられなくはなかったのだが、野田が理津子に渡してくれと言った離婚届の存在を、深い考えもなく理津子本人には隠蔽し、突然第三者に暴露するに至って「こいつもか…」と暗澹たる気持ちになった。
なんなんだこの嘘つきワンダーランドは?
嘘つきは伝染する病だとつくづく思う。
「男と女」は必ずや騙し合い利用しあうものである、という考えが根底にあるのでは
もちろん本音を言い合う間柄もあるが、基本的には「男と男」同士、「女と女」同士しかそうならない。そもそも、同性同士でいがみあうことはあまりない。当初は険悪な空気が漂う間柄であっても、最終的にはお互いを尊重しあえるような関係を作り出している。
いっぽうで、男は女を利用するものだと作中で明言されており、女もまた男のそれとは違うかたちで男を利用している。
「男というのは」「女というのは」という語りは一面の正しいかもと感じる部分はあるものの、個人の特性という部分もあろうにそれは無視されて、過剰に一般化されている感じがする。そうではない男女も世の中にはたくさんいるだろうし、男だから女だからどうというより、人間としてそういう特性を持っているから、周囲に似たような人間しか集まらないのではないだろうか、という気がする。
特別な存在でいたいがため自分の特別さを演出し、他人の特別さはどうにかしてひっぺがす。特別っぽい誰かも自分よりは不幸かつ平凡であれ
4巻に至るまでには、中島と理津子の間にはそれまで語られていなかった秘密の思い出があり、実は肉体関係も持っていた、というエピソードが追加されたりするが、色々な女性と付き合ったり別れたりしていたのはいつのことだったのかとか、中島の謎の一斉プロポーズに対する皆の返信はいつどのようなタイミングでされて、中島が見たであろう最後のメールはどれだったのかとか、時系列がまったく整理されないまま嘘つき男女のダメエピソードだけがどんどん積まれていくいっぽうなので、正直疲れてくる。
しかしまあ、登場人物全体に共通した行動の根底は「自分が誰よりも特別でいたい」ということかなと感じた。
中島の妹は理津子が中島の自殺願望を小説という形で世に発表したから兄が後にひけなくなったと言っているが、中島本人は「自分がモデルである」と単行本を渡して周囲に喧伝しているし、作中で自分がモデルになった登場人物の名前を名乗ってホストをやっている。
その理津子も、中島の死について責任を感じている友人について、いわば「お前の責任はどうせ八分の一」とでも言わんばかりの発言をする。
理津子が野田から離婚を迫られている4巻では、夫婦で写真家をやっているが夫のほうが圧倒的に有名、という家を訪ねるが、その家でも夫が妻に離婚を迫っている。しかし夫が離婚したい理由の説明がいまいち情緒的すぎてわからず、あえていうならそういうことなんだろうかと思った。
また、中島が求婚したひとりの女が中島について以下のような発言をしているが
このことについて「いつまでも大人にならない男の子のままな男性が好きだから」という主旨の理由づけをするが、その後の過去の回想であまりそれに関する補足説明はなく、個人的には、平凡な人生を歩んでいた自分よりも立派にならないままでいてほしいということだったのかなと感じた。
全体的に登場人物が全員自分のなかの上記のような感情から目を背けて話しているので話がややこしくみえているだけというか、他人だけでなく自分に対しても嘘をついており、作中で誰かがそれを突っ込むという展開もないので、メンヘラっこの話をひたすら聞いているような徒労感があった。
あくまで私の感想なので、実はもっと高尚ななにかがあるのかもしれないけれども、とりあえず続きは読まない予定。少なくとも完結して、終わらせ方が素晴らしかったという評判でもきかない限りは。
同じところをぐるぐる回っているだけで、勝手にやっててくれという気持ちになってしまった。出てくる男性は全員タイプの違う塩系イケメンで、女性は際立った美人ではないがなにか男を惹きつける魔性を秘めている、みたいな設定が多いので、男女がくっついたりはなれたりを繰り返し人間関係がドロドロな恋愛ドラマが好きというタイプの人には面白いかも。
ちなみに自分が飲んでたお茶はこれです。おいしいです。