「幼女戦記」で有名なカルロ・ゼンが原作の、防テロ講義マンガ。
ちなみに幼女戦記は、絵がかなり好みで1巻を買ったのだが、登場人物がことごとく一心不乱の大戦争をアジる某少佐みたいな喋り方するのでいささか食傷気味で脱落。
しかしミリタリー系は定期的に読みたくなる上、このシリーズの1巻の表紙がまたまた好みな感じだったので手を出してみた。
結論としては、面白かった。ただ講義をしているだけだが、幼女戦記に比べると作者の言いたいことだけが直球で届いて、読みやすい印象。
しかし、各キャラクターの背景はあまり描かれず、作中で起こるさまざまなできごとや、話の起伏などは、演出上どどんと大事件のように描かれているが、すべて登場人物が授業を受けている以上のものではないので、ビジネス書やら自己啓発ノウハウ本などをコミカライズしたものに近いイメージ。
なお、最近のビジネス書のコミカライズというと、読者の分身である作中キャラクターが、当初はダメダメだったが、教え手である先生に出会ってまずは全否定されるも徐々に褒められるようになり、ついには圧倒的成長を見せて先生からは感心され周囲からは尊敬されまくり、という、なろう系小説もびっくりのご都合主義な進研ゼミ展開がお約束で読んでいるこっちまでなにかを達成したような気持ちになれるのがいいところだが、残念ながらこの本はその点においては少し、いや、かなり異なり、読んでてけっこうストレスが溜まる。マンガは本来楽しみのために読むはずだが、このマンガのエンタメ性はビジネス書よりも低い。ちょっと誉められ(るような雰囲気を漂わせ)たり、なにかを理解したような気持ちになったり展開はあるのだが、それは常に、後で教授から考えが浅いの甘いのと全否定されるための布石でしかない。ので、途中から「どうせ間違ってるんだろ?」「もうさっさと答え言えよ」という気持ちになる。
とはいえ「テロ」というのが、何を意図して実行されているものなのか? という話はなかなか面白かった。
よくある有名施設の襲撃やら爆破やら、そんなことをしても敵対勢力の戦力を大して削げるわけでもなかろうに、被害者から恨まれ、危険な集団とみなされ、弾圧さえる口実を与えるばかりで…バカなのかな? と正直思っていたのだが、なるほど、私の考えが浅かったようだ。
血湧き肉躍りドラマティックなストーリー…でなくても、登場人物が何かを達成して成長していく的な物語が読みたいという場合にはあまり面白くないだろうと思われる。しかし、テロという分野に限らず、あることについて別の視点でのものを見るということについての考え方を知りたい、という人にはオススメ。個人的にはかなり面白かった。
しかしまあ、漫画形式にせずとも、内容だけをPHP文庫などで出してくれたほうがよかったのでは、という気はしないでもない。
その場合自分も読んだかどうかはわからないんだけどな、たしかに。
いっぽうこちら、エンタメどまんなかとなっております。(これも良きかな)
少佐の演説は「声に出して読みたい日本語」のひとつ。