これ、読みました

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漫画

米代恭「往生際の意味を知れ!」1〜3巻

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突然自分の目の前から消えた元カノ「ひより」のことを思い続ける、冴えない公務員「海路」。そんな海路の前に突然現れたひよりは、性交なしに海路の精子だけをもらって妊娠し、それを映画として公開したいという。それは、自分の作品のために彼女の人生を嘘で覆い続けた漫画家の母に対する復讐だった…という話。

思えば、魔夜の娘は〜シリーズを買ったらレコメンドされたのだが、2巻の途中で理由に納得。

スピード感があり目を離せぬ展開で、3巻まで一気に読んだ。読んだのだが…読み終えたいま、伏線ひきまくりの複雑な設定をぎりぎりまで隠しばっと明かす計算高い衝撃の展開続きということだったのか、後からどうとでもできそうな伏線ぽいことを用意しておいて読者の反応を見て話の展開を変えるいきあたりばったりな超展開だらけということだったのか、判断に困っている。

というか、後者じゃねえかな、と思っている…。

 

※以下、あらすじをかなりネタバレしているので未読のかたはお気をつけください。

物語は、元カノが好き過ぎて未だ忘れられず元カノとともに映画監督の夢も失った未練がましい男の視点ではじまった

1巻のはじめは、タイトル通り自分の前から去った元カノを7年間思い続けるという話だった。正直なところ、これ面白くなるのか…? と不安になりながら読み進めたら突然襲ってきた不幸のドン底からの、元カノひよりから突然の連絡。(ちなみに襲ってきた不幸と元カノは、完全無関係

なるほどこうきたか、と読み進めたら、ひよりはなんと出産シーンを撮って欲しい、という、衝撃的だがときめきの欠如した依頼をしてくる。海路はさまざまな葛藤の末それを引き受けるのだが、その頃には、なんだこれ大丈夫か…? と、私の心配がMAXに。

その後、ひよりのその奇妙な依頼は、彼女の母親に対する復讐なのだと言い出す。なるほど、復讐とは穏やかじゃないないったいどういうことなんだ! という気持ちにならなければならないのはわかるのだが、なんでやねん! という気持ちがノンストップ

そんな私の気持ちを無視してひよりの話は続く。

 

元カノはアニメ化しているあったか家族エッセイで有名な有名漫画家の長女だったのだが、あの漫画は嘘だらけだと言い出す

ひよりの言う、母親への復讐とは――彼女の母である漫画家、日下部由紀の今も続くヒット作「星の三姉妹」が、嘘だらけであると世間に暴露することだった。漫画の内容は作者である母の都合のいいように改変あるいは捏造された嘘だらけの内容で、その登場人物にされた彼女はずっと苦しんできたのだった。

母は、姉妹たちが家によりつかなくなっても妄想の仲良し親子を未だ描き続けている。作中で最も盛り上がったのは父が死んだエピソードだが、癌にかかり入院した父を姉妹たちが見舞うなどという事実はなくまったくの母の捏造。漫画を面白くするために父はだらしない人間扱いされて、しまいには殺されたのだとひよりは語る。

……ここの展開は大変面白かった

この説明の時に出てくる漫画のコマ割りや雰囲気が、作中で父の死が描かれた某家族エッセイ漫画をめちゃくちゃ想起させるので、もしかしてあれがモデルなの…? あれってそうなの…? と、下世話なゴシップ心を掻き立てられる。実際、たったひとりの視点からのみ語られた話というのは語り手の都合のいいように歪まされてしまうものだし、それが家族のなかで絶対権力を持っている親、まして世間で知られた漫画家で、家族の話を描いて人気を獲得しているとなればなおさらだ。なるほど、親が描く家族エッセイ漫画というのは、親が子供の人生を横取りしているようなものなのかもしれない…と考えさせられたりした。

実在の家族を登場させている漫画に誰それが何をした、と描かれていたら、読んだひとは当然にそれを信じる。本人が否定してもだし、そもそもそれを読んだ人すべてに「あれは嘘だ」と説明すること自体が不可能である。たとえネットの力を持ってしてもだ。

しつこく言うがそんなわけでここは面白かった

  

突然のラスボス遭遇、光の玉を使わずとも正体を現してくれる親切ぶり

こういうとき、母というのは何を考えているかわからない…というか、家族を蔑ろにして自分のことしか考えない、子供の期待をすべて裏切り続けるあまりに身勝手で得体の知れない人物…と描かれ、しかし家族以外はなかなか彼女のその邪悪さに気づかない…という感じになる。と思いきや。

主人公の海路は偶然に、問題の母、日下部由紀と遭遇。それまでは元カノのひよりが好きなあまり、彼女の告白の真偽はどうあれとにかく一緒にいたいから依頼通りにするというスタンスだったのだが、手を軽く払っただけなのに大袈裟に倒れ机に頭をぶつけ額から血まで流し、海路を悪者、自分を被害者であると劇的な演出をした日下部由紀に、ひよりの言っていた彼女の恐ろしさを完全理解する。

ここは…多少もやっとはしたが、漫画なので演出は過剰気味になるにしても、たしかにこういう人はいるよね、と思った。いや、漫画なんで演出過剰なだけだよね! と。

なお海路は、暴行の疑いで警察に捕まり留置所に入れられるも、被害届が出されなかったということで即日釈放された。

 

……留置所のくだり、必要だったかな?

 

ラスボスの城にみんなで乗り込む。そこには恐ろしい秘密が隠された秘密の部屋が…

その後、ひよりとその妹、それにひよりたちの味方である父方の伯母の三人は、母が留守の間を狙って家を訪ね、海路も当然に堂々する。訪問の目的は、漫画のネタのために、発癌性物質を多量に含んだ食事を与えられ続け癌になってしまった足の悪い三女を家から連れ出すことにあった。

…………ん?

足が不自由なのでこれまでは逃げられなかった三女だが、母に毒(発癌性物質)を盛られるに至ってはさすがに家を出ることを決意……したように見えていたが、、足の悪い自分でも贅沢な暮らしをさせてもらえるこの家を離れたくないとか言い出す。そして、留守だったはずの母が部屋の奥から登場

しかし、ひよりたちが母の注意を引きつけている隙に、海路は事前に準備しておいた合鍵で隣の部屋へと不法侵入。用意していた工具で、壁に穴を開け始める

母とひよりたちが話す部屋にまで鳴り響く電気工具の大音量。母がそれを工事の音と勘違いして油断しているうちに、ついに目的の穴が開くも、通報によりかけつけてきた警察が、不法侵入した海路を逮捕すべく部屋のドアをこじあけようとする。

海路が開けた穴の先には、殺風景なところに机だけがポツンと置かれた一畳ほどの狭い部屋があった。そこは、母の作中では癌で闘病の末亡くなったはずの父が、死ぬまで幽閉されていた部屋だったのである。幼いひよりは閉じ込められた父から外部に助けを呼ぶよう頼まれるが、母に頭を殴られ気絶。病院で目を覚ましたが幼いひよりにはどうにもできず、父は閉じ込められたまま。結局母に殺されてしまったものと思われる。

……父が殺されたって、人格がーとか社会的にーとかそういう目には見えず測り難い意味での話じゃなく、物理的な意味でのアレだったみたいですね。

その後色々あって、海路はひよりを抱き抱えマンション最上階の窓からダイブ。普通は死にますがご安心、マンションは階段上の構造で、地面に落ちたわけではなく、途中階に着地。だいたい3〜4階分の落下ですみました

ちなみに落ちた彼らを警察が追っていきます。あのね、いくら相手が怖いからって、一番下までは落ちなかったから大丈夫、っていうほど重力加速度は甘くないからな?

 

あらすじ書いただけで疲れた

以上、素材の味でした。

読んでいる間は面白かった…と言いたいところですが、さすがに3巻の途中くらいからこれはなにかおかしいぞと気づいてしましました。

ちなみに話が進むにつれひよりと海路が色々理由をつけて徐々に距離を縮めていくのですが、漫画のなかでは微笑ましいような雰囲気を醸し出していますけど、冷静になって読むと理由もやってることもいまいちおかしいし、こうなると海路のひよりへの執着っぷりも一途であるとか運命の相手だったとかロマンチックなものでなく、顔の輪郭からはみ出してるあの謎まつげから怪しい洗脳電波でも出てるんかいなという気がしてしまいます。(なお、登場直後はまつげも可愛いと思ってました)

あらぬ方向にぶっ飛んだ漫画もそれはそれで嫌いじゃないのでこのまま行くところまで行って欲しい気もしますが、2巻の途中くらいに戻って書き直したバージョンも読んでみたいです。

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