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漫画

蛇蔵+鈴木ツタ+たら子「天地創造デザイン部」1〜6巻

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こんなに面白いのになんでアニメ化しないんだろう? とずっと思っていたら今、してた

動物のデザインって「やけになって造った」みたいな奴あるよね〜

あ〜数あわせの捨て案が通ったみたいな奴な〜

という、何気ない会話から生まれた世紀の名作。日本が誇る蘊蓄漫画の雄こと蛇蔵さんと、某界隈では良作連発で知られた鈴木ツタさんと、絵のうまいたら子さんによる、自然界が最高に面白く見えてくるマンガ。

…作者のひとりがライダーマンの紹介みたいになってしまってすみませんが、私があまり知らなかっただけで、この絵があっての天デ部だと思っています、ほんと。動物めちゃくちゃうまい、というか、こんなにどこかで見たようなパーツが組み合わさってるけどこんなんいないわという奇妙で多様な生き物たちを、グロさを感じさせずさらりと描き切れる人、世界を見渡しても何人いるかな?

あっ、もしかしてアニメ化までけっこう時間がかかった気がするのは、これらの動物の絵をアニメに持っていけるスキルのある人が限られていたみたいな理由かな? わかるわぁ〜。(勝手に共感)

 

デザインの検討という設定での議論を通じて、生き物たちいがいかに環境に順応するための形質を獲得したかが理解できる

あらすじは説明するまでもない気もしつつ(ん? こんな名作読んでない人おるん??)、聖書によればすべての生き物を作ったということになっている天地創造の神様ですが、実際はそこまで手が回らず、配下のデザイン会社を作って生き物のデザインはそこにアウトソーシングしていたのである…という設定のもと、実在の動物のデザインが、一見不合理に見えてもいかに合理的であるかを追っていく話。神様からの面白に走ったとかしか思えない無茶ぶりをもとに、物理的な制約を発想の転換で乗り越え、時に他の動物で採用されたアイデアを借り、あるいはデザイナー個々人の譲れない性癖によって動物のデザインが決定されていく過程が、めちゃくちゃに面白い。

シマウマのあの模様は迷彩柄的なやつかと思ったら目立つだけで逆によくない、しかしそれなのにあの模様であることにはもちろんある理由があった、とか。

象の耳は音を聞くためではなく別の役割を果たすために大きくなっており、音の検知には耳ではなくむしろ足が重要である、とか。

有名な動物の意外なエピソードもあれば、こんな動物本当にいるんだ? みたいな話もある。

いっぽうで、「たくさん動くにはたくさんのエネルギー摂取が必要になる」という生き物としての共通の制約にひっかかった場合、ある生き物は効率的なエネルギー摂取を行うことで動きの量を担保し、ある生き物は逆に動く量を減らすことで少ないエネルギー摂取で済むようにする、など、解決策が必ずしもひとつではないのが面白い。

デザイナーたちの試行錯誤は、進化論でいう突然変異と自然淘汰におきかえて考えられる。進化論といえば象の祖先はもっと鼻が短かった、というくらいしか知らなかった私だが、なるほど、こうやって生き物は多様化していったのか、というのがめちゃくちゃ理解できた。小学生のときにこれを理科の教科書にしていて欲しかった。

わがままなクライアント(神)に振り回されるデザイナーたちの苦労が面白い

ちなみにそういったうんちくだけでも面白いのだが、逆にデザインしているのが実在の動物である、という要素がなくなったとしても、神様からの無茶振りや物理的制限に頭をかかえたり、デザイナー個人個人のこだわりやら精神状態やらでこれまでにない新しいデザインが出てきた、という過程を見ているだけでも面白い。

お客様は神様です、という言葉があるが、このデザイン部のお客様は本物の神様であり、どんな無茶ぶりがきても拒否権はない

現作者のひとり、蛇蔵さんはデザイン会社勤務経験があるようなことが1巻の後書きマンガにあるが、世に溢れるあらゆる人工物は、当然ながら自然発生的に生まれたものではなく、こうやってひとつひとつデザイナーさんが、物理的な制約に縛られつつ、クライアントのフィーリングだけの発注内容にも応えて、四苦八苦生み出してくれているのだな…。

 

キャラ立ちもすごい

なお、デザイン部の面々がひとりとしてキャラ被りがないのもすごいと思う。

「馬」「鳥」「蛇」などそれぞれ過去の代表作を持っていて、自身があるがゆえにそのデザインをベースに亜種を展開したがったり、自分のデザイン動物が不遇なのをどうにかしようとアップデートを続けた結果、魔改造みたいになったりする。

あるいは可愛いものが好きでその人がデザインするものはオーダー内容はどうあれモフモフになりがちだとか、やはり可愛いものが好きだが可愛いの概念が一般的なそれとずれていてその人のデザインには必ず毒だの寄生だの悪食だのの属性が付与されているとか。

なお、巻数を重ねるごとに少しずつ登場キャラクターが増えてくるのだが、5巻から6巻にかけてでてきた「植物部」のこのふたりがかなり好きである。

手塚治虫すらも想定外の効果音

すっごくアニメで見たい

普段はアニメはみないのだけど、ぜひこのキャラが出るまでは続編を作ってほしいので、応援視聴でもしようかと思います。

ゆっくりしていってね!
…ではなく、最新6巻で一番ぐっときた話に出てきた二体。
ナマケモノを見る目が変わった。

鈴木ツタさん初心者は「BARBARITIES」あたりから入ってみるとよいのではないですかね。ゴシック! 貴族! 退廃! ヒュウ!! なお私は「メリーチェッカ」で入門しました。

最近気づいたんですが、わたし、好きな漫画はこの末尾のリンクを貼りすぎになりがち。決マネ日本人の知らない日本語シリーズもはりたかったんですが、さすがに多く過ぎかと断念。

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