そういえばこのブログをはじめるときに決めていたのが、面白くないものは面白くない、むかつくものはむかつくと、はっきり書こうということでした。
自分がどんなに嫌いでもそれを好きなひとがいるからこの世に存在しているわけで、それを好きな誰かを傷つけるようなことは…と思ってどうしてもふんわりとした感想しか書けないのがいやだったのですよ。TikTokなどの最近の若者が集まるSNSでは老害どもが驚くほどネガティブ発言が少ない、褒め合いの文化が成立していると聞くんですが、人間良かった探しばかりじゃやってられない時もあるんですよ。
というわけでこの漫画の感想はネガティブです。悪い感想書くくらいなら読むなというご意見もあるでしょうが、全巻買って最後まで読んだんだから文句くらい言わせろ。
この漫画が好きな人はこれ以上読まないほうがいいです。あと、ネタバレしまくるのでそれが嫌な人もそっ閉じしてください。
なお読み終えて即、端末から削除したので、記憶だけであらすじと感想書きます。間違ってたらごめんなさい
まず、そもそもなぜこの本を買ったかといえば、amazonで三巻まで無料で読めて、そこそこ面白かったからです。夫の浮気が原因で離婚した、人生も黄昏に差し掛かかろうという年齢ののたかこさん。夫は浮気相手の若い女と再婚し、一人娘の親権もその夫に取られ、年老いた母の介護で日々がすぎていく。しかし、たかこさんはこうなってはじめて、自分は昔から母の性格をうとましく思い、そして夫を愛していなかったことに気づく。そしてたかこさんは、人生のたそがれにさしかかりながらも、新しい人生を少しずつ歩んで行く……という感じの話。
ここまではいいですよね。
もともと気の合わない母親と喧嘩して夜中に外へ飛び出したところで若い頃はさぞやモテたであろうと思わせる軽妙なイケオジと出会ったり、そのイケジジに誘われていきつけのバーができてみたり。若者の間で流行っているというバンドの音楽に感動して、タワレコに通ってみたり、楽器を始めてみたり。あるいはそれをきっかけに同じアパートに住んでいた片親で不登校の中学生の少年と仲良くなったり。夫のもとで不自由なく暮らしていると思っていた明朗な娘がいつの間にか心を病んで不登校になり自分のもとへ転がり込んできたり…。新しい出会いと、これまでの人生で積み重ねてきたものたちが交差しながら、話は進んでいくわけです。
ここまでもいいんですよ。
ていうか、なんだこれ? と思ったらそこで読むのをやめればよかったんです。でも、最後まで読んじゃったんですよね。まさかそんなはずないよな? と思って。
もうはっきり書くとですね。
主人公のたかこさんが、10巻かけて、娘よりも若いその不登校の中学生にいつの間にか恋してて。数巻かけて思いを募らせた末、クライマックス、二人がともに好きだったバンドのライブの、盛り上がりの真っ只中で、その少年の手をそっと握り、泣きながら告白するんですよね。
と。
………………えっ、なにこれ。
キ モ い
なお、告白された少年は、嫌悪感いっぱいの表情を浮かべたかこさんの手を振り切ってライブ会場から逃げ、そして以降はそのアパートから引っ越しするまでたかこさんを避け続けたっていう展開でね……つまり、漫画表現に失敗して私はキモいと感じたが漫画内での人間関係はうまくいっているのである、ということではなく、たかこさんは、好きな相手に実にキモいと思わせる告白をした、ということ。(なおその時の少年の表情はなかなか白眉でありました)
いやね。
そのね。
中年や老人の恋を否定するつもりはないんですよ。
自分なんかその少年より全然たかこさんの立場だし。いい歳して若い子に! お前そいつの母親より年上だろ?! なんて目くじらをたてるのもね。あと、年いってても綺麗なひとならともかく、たかこさんて作中でみるところのない容姿と年相応にたるんだ肉体を惜しげもなく披露してくださるものだから……とも思うけども!
でも、ほら、恋は自由なものだし?
人を好きになるのって悪いことじゃないと思うし?
偉大な芸術家で年甲斐もなく若い子に求愛しまくった人誰でしたっけ?
ただね。
いやね。
まずね、告白のしかたがキモいです。
それに、知りあったきっかけやらなにやらは、片親ゆえに放置されがちな少年に対し、大人然・保護者然とした態度で接近していっていたわけでね。自分を保護してくれるはずの相手が自分に対し性愛的な感情を抱いていたって知るの、めちゃくちゃトラウマになりません?
それに、なぜそのタイミングなのかと。別の日でもよかろうよと。衝動くらい制御しろよと。うまくいかないことはわかっているのだから、せめて、最高の思い出を最悪の思い出に変えるような真似はしないでやってくれよと。
少年への失恋をきっかけにたかこさんは楽器の練習もやめ、そのバンドの音楽も聞かなくなったけど、多分少年もそうだろうなあと。一生のトラウマになりかねないってこれ。
なお、著しい嫌悪感を感じるのは実は願望の裏返しとかいう話を聞いたことがあるので、ここまでキモいと感じるからには実は私にもたかこさんのような願望が?! と思ってしばらく悩んだんですけど、うん、全然ねえわ。
でも、老人の恋も若い子への恋慕も他人がやる分にはそれほどNGってわけでもないし、たかこさんも別に騙して襲いかかったとかでも全然ないのになんでこんなにキモいと感じたのかな? と考えてみるに。
要は、たかこさんの告白があまりに身勝手だからじゃないかと。
少年との年齢差を考えてみるに、お前、いい年して、もう少し相手の立場になって考えてやれなかったのかよと。
相手のことが好きだというならなおさらだろと。
そこで気付いちゃったんですけども、要はたかこさんて年齢の割に幼いんですよね。
ふんわり人生を過ごしてきて、人生の黄昏時になってようやく現実と向き合うことになって。本来であれば、もっと若いうちに経験してそれなりに振る舞えるようになっているはずの恋愛の場がうまくとりまわせなくて。今さっき「もう少し相手の立場になって考えてやれなかったのかよ」と書きましたが、その通り、「やれない」んでしょう、たかこさんは。未熟だから。でも見た目は老人だから、勘違いして若者のように振舞うことでキモがられてしまう…と。
で、そこまで考えて、私は思ったんですよね。
つまり、若いうちに遊んできていないやつが老人になってから急にフィーバーするとキモいってこと?
と。
いやキモいかもしれないですけど…
この漫画の言いたいことってそういうことなの?
人生ってどこからでもやりなおしがきく! とか
今日が人生のなかで一番若い日! 今からはじめよう! とか
そういう希望のある話はなにもないの?
人生においては、一度暮れ始めた日が再び昇ることはないってことなの?
新しい人生をはじめたはずのたかこさんは、少年に振られ、娘の通える学校を探して…そして、たかこさんに残ったのはお金を払えばお酒を飲ませてくれる、老人の集うお店と母親の介護。
少年に対する不適切な告白への反省はなにもないままたかこさんは自分の悲しみに暮れるのみで、なにも成長せず、これからも生ぬるい環境で生きていくのでしょう、と、そんな終わりかた。
なお、そのお店のイケジジも、当初は自分に夢中だった若い恋人の性的な要求に応えきれないことをきっかけとして、結局自分の甥にその恋人を取られて終了。
…………。
この漫画を最後まで読んで私が抱いた感想、受け取ったメッセージは、そういうものでした。
いやまあ、まあ一面の真実だとは思いますよ。こういうのもね。
理想論だけじゃやっていけないところもあるでしょう。そういうスパイシーな話をする人もこの世に必要かもしれませんね。
でもね。
1巻のはじめはこれからが本当の人生だとばかりに読者を掴んでおいて、10巻もかけて聞かされた話がそれかよ、それだけなのかよ、と。
この漫画の作者さんも別にそれほど若い人ではなかったと思うんですが、なんでこんな話描いたんでしょうね。
もしかしたらこれだけがひどかったのかもしれないけど、この作者さんの作品はもう二度と読みません。
……ちなみにですが、こちら、38歳バツイチで若いイケメン(モデルなど)と出会いまくりやりまくる実話になっております。
帯にも写真のある作者さんが、(まだ)38歳とはいえ若い子と出会いまくれるのも納得の美女で、Amazonのトップレビューのタイトルが「もう少しだけ夢を見させて」だったのが秀逸としか。ほんそれw
お顔も美人ですが、作中の男性に対する振る舞いを見るに、ああこの人はもてるわあという感じ。
まあこれはこれでどうかと思う部分もありますが、黄昏に純真な若人をいたずらに巻き込み、自己憐憫にすすり泣く話よりは全然マシ。