これについて書きたくて、2年近く放置していたこのブログを思い出した。基本的に本は読み散らかすほうというか、一度読んだものはあまり読み返したりはしないのだけど、この漫画はなぜかめちゃくちゃ読み返している。そしてそのたびに新しい発見がある。はじめに読んだときは「なにが面白いんだこれは?」という感じだったのだけど、いったい私はなにを読んでいたのだろうか、私の目は節穴なんじゃ……いやいやいやいやいやまって。読み返してもべつにすっごい面白いとかそういうわけではないんだ。それなのになぜか読み返してしまうんだ。なんだこれは?
食べ物があまりおいしそうではなく、主人公はいわゆる社会の底辺的なところで這いずり回り、不幸なまでに考え込みすぎながら生きるために食事をとる。おいしそうなものがないではないが、ちょいちょいとあまり真似したくないシチュエーションやレシピも出てくる。生きる糧を得るために休みなく働く主人子は、ティッシュ配りのバイトの休憩時間、寒い雨の日に道端で人目を避けながらコンビニのパックのおかゆを温めもせず食べる。想像しただけで心も体も寒くなる。
そういう意味では「鬱ごはん」に
少し似ている気がするが、鬱ごはんとは決定的な違いがある。
主人公が
幸せそう
なのだ。
不登校、中卒、バイト暮らしの29歳、時給の安い過酷だが誰にでもできるバイトを掛け持ちして働き続け、そんなバイトですらもしばしばクビになり、家でも外でも幻覚が見えていて、今後のことは考えられないその日暮らし……と、シチュエーションだけ書けばウシジマくん
で、小悪党から搾取された挙句に殴られるみたいな役どころで出てきそうなくらいのステータスなのに(私のイメージのひどさよ)、この主人公はそのなかでけっこう幸せそうに生きている。
ときに
なぜ感情はあるの?
昆虫みたいに
システマティックが良かった
とネガティブ全開の発言が飛び出してくるが、その次のコマでは
というオノマトペを発し、そして
悩み苦しみ
死に怯えて
いたら 今度は
何に憧れれば
良いのか
と、思考が超展開する。
主人公はいわゆる社会の底辺、「支援が必要な」人であるはずなのだが、こちらが憐憫の情や、あるいは優越感や、共感や、感想すらも抱く間が無い。
とにかくなにが面白いのかよくわからないが最近いつもkindleのリスト(直近で読んだ本が上に来る)の目につくところにある。いっておくが私はいわゆるサブカル系の漫画に惹かれるほうではなく、どちらかといえば線が綺麗でわかりやすい漫画のほうが好きだ。ねじ式もナウシカも一回読めば十分だった。それがこの漫画ときたら、画面全体は書き込みが激しく線も散らかっていて、主人公もどこか小汚い感じの設定である。理屈だけで言えば不快さに読み続けられなくてもおかしくないのに、まったく不快感を感じずに読んでしまう。何度も読んでしまう。崇高な志などなにもなく、大きな事件が起こるでもない。すごく面白いとかためになるとか心に響くとかなにもない。そのはずだ。それなのに、一度読み始めるとついつい最後まで読んでしまう。画面が散らかっていてやたらとモノローグも多い。なのにちゃんと内容が読める。セリフの読み飛ばしもなにもひっかかるところがない。読みやすいのだ、多分。読みやすいのに、すぐに忘れてしまう。毎回「あれっこんなエピソード読んだっけ?」「このモノローグが面白いことにどうして今ようやく気づいたんだろう?」と驚くところが出てくる。なんだろう。この作者さんはもしや天才なのか? あるいはこれは次の人類のための漫画なのか?
よく見たら巻数表示がなかったので1巻完結っぽい。えっ……続き……出してほしいような……出してほしくないような……出してほしいような……出してほしくな……いや出してほし……出し……出……(以下ループ)