これ、読みました

読んだものとか感想とかを粛々と記録するブログ。

漫画

明日、私は誰かのカノジョ 1〜5巻

投稿日:

ツイッターだかネット広告だかで見た、以下のシーンが気になって読んでみました。

残酷w

王子を必要としないお姫さまたち

当初は1巻の表紙である「雪」が主人公。顔にひどい痣を持つ雪は、化粧でそれを隠し、体の関係を伴わないでデートだけする「レンタル彼女」店で働く、人気の「カノジョ」です。いろいろな男性の前で「理想の彼女」を演じていますが、誰に対しても心は空虚なまま。しかし、あるお客さん(同年代のイケメンで誠実なおぼっちゃま)とプライベートでたまたま遭遇してしまい、それをきっかけにそれまで閉ざしていた扉の奥に踏み込まれて…という流れ。

よくある展開としては、当初は単なるお金目当てで氷のようだった彼女の心も彼の優しさにだんだんとほだされていき、何度かのすれ違いを経て顔の傷も心の傷もすべてを受け入れた彼氏のもとへ飛び込み感動のHAAPY END…という感じだと思います。私もそう予想して読んでました。しかし、そうはなりませんでした。雪ちゃん、自分の傷を知っても両手を広げてくれたその王子さまを、普通にフります。しかも、一緒に行った旅行先で帰りのチケットを渡され、僕と付き合ってくれる気があるなら一緒に帰ろうこの部屋で待っていて、みたいなことを言われた後、待ちませんひとりで新幹線乗って帰ります。べつに特に泣いたり、ごめんなさいみたいなモノローグとかもありません。しれっとした顔で帰ります。そんで、その彼とのエピソードはそれで終わりです

まあ、だいたい、それからほどなくして、その彼も普通に他の女と付き合いはじめてましたからね。

ストーリーは章立てで、3〜4巻ごろからは雪以外の女性が主人公を務めるようになるのですが、この「雪」に代表されるように、アナ雪以降

多く世に出てくるようになった、いわゆる王子と必要としないお姫さまたちのストーリーが展開されています。

王子を必要とする姫は搾取されるのみ

王子と必要としないお姫さまたちのストーリー、と書きましたが、出てくる女の子のほとんどは、旧来のお姫さまのイメージに近い子たちです。いつか素敵な王子様が自分を見つけてくれると夢見ている素直で可愛い女の子たち。

しかし、そんな女の子たちは、残らず搾取されます。

たとえば、雪の友人の「リナ」。心に陰を持つ雪の唯一の友達。秘密の多い雪に時に不信感を抱いたり仲違いしたりすることはあるものの、それらも含めて、がんばっている超いい子です。

が。

彼氏に振られた寂しさからゆきずりの男に寄りかかれば都合のいいセフレ扱い。

パパ活相手の男性は、表面上は優しいものの、その実は単なる消耗品扱い。

「雪」に目をつけたそのパパに、雪にアプローチするためのダシに使われてしまいます。

また、5巻に出てくる「ゆあ」。

ホストに入れ込み多額のお金を落とすも、所詮は客のひとり。それでもそのホストを必死で信じて、腕はリストカットの傷だらけです。

みんな、いわゆる「イタイ」女の子たちなんですが、いや、いい子なんですよ。誰にでも優しいし、相手の言うことを疑わない、本当にいい子たちなんです。そして、いい子だからこそ、相手が望むままに自分のものを差し出してしまっているんです。そこにつらさを感じながらも、いいお姫さまでいれば、きっといつか王子さまが迎えに来てくれる、目の前の王子さまが自分に向かって両手を広げてくれる日がくる、と、そう古い物語を信じて、いろいろなものに目をつぶっていい子のままでいるのです。

そんな通俗的な物語を信じず、自分自身にのみ忠実な女の子は、幸せかどうかはともかく、少なくとも搾取はされていません。というか、自分が幸せではないことを受け入れているからこそ、強い姫として一人で立っていられるのかもしれません。

強いお姫さまは、優しい

はじめの主人公、雪以外にもうひとり、「あやな」という強いお姫さまが出てきます。雪と同じレンタル彼女点で働く女性で、整形中毒。店に内緒で客から正規の料金以外の多額のお金を受け取って、そのお金で整形を繰り返しています。

そのあやなは、登場時には雪を敵視していたり、そもそもお店のルールを破っていたりと、いかにも悪役キャラ、といった感じでした。

雪の客であった女装嗜好のある男性のデートに、雪の代わりにあやなが指名される展開となったときも、正直いやな予感しかしませんでした。見た目についてコンプレックスがあり、自分より若くて美人な雪を敵視している彼女は、その女装男子にさぞやひどい言葉を投げつけるなどするのであろうと、その展開を予想するだけでつらくなってしばらく新刊に手が出ませんでした。

が、違いました

その男の子の顔立ちの良さを賞賛し、その顔を持って生まれたのに化粧が下手なのはもったいない、と、雪以上に積極的に、親切に、その男の子にお化粧についてアドバイスしてくれます。顔にコンプレックスを持っていて、しかしお金と医療の力でそれを乗り越えたからこそ、彼の可能性にも目を向けられたのかもしれません。

その後あやなは、整形のことと年齢詐称が婚約者にバレて婚約解消となり、さらに客から金銭を受け取っていたことがばれてお店もクビになります。普通であれば、因果応報のざまあ展開でしょう。しかし違います。男の浅慮を鼻で笑って、戦友である雪に笑いかけ、次の戦いの場へ赴くあやなの姿は、正直痛快ですらあります。

その善悪はどうあれ。

それが単なる、皮一枚の良し悪しに囚われているということであっても、です。だいたい婚約者のほうもあやなが容姿のことばかり気にするのを責めますが、整形前のあやなの顔を見せられた時の顔が

こんなん

ですからね。

本当に容姿なんかどうでもよくて君の中身が好きなんだ、というのであれば、この顔にはならないでしょうね…婚約者の偽善を一コマで看破、という感じでしょうか。

裏サンデーコミックスとして発売されているが…

サンデーといえば少年漫画誌、少なくとも男性向け漫画のブランドだと思うのですが、これ、男性に受けるのか…? と他人ごとながら心配になります。ただ、女性向けの媒体で連載されていたのであればもっと女性受けを考慮するなどして、やはりこういう話にはならなかったような気もします。

章立てで話が進んでいることもあり、いつまでも連載できる気もしますし、いつ終わってもおかしくない気もします。個人的には他にはない非常に面白い漫画だと思っています。続刊期待してます!

-漫画
-, ,

執筆者:

関連記事

凪のお暇 3

ぎゃああああああああ! 怖い! 怖すぎるだろ!! まさかのホラー展開キタコレ。 3巻のはじめは慎二との思い出話からはじまる。そして、なぜ凪が「空気を読みすぎる」性格に至ったのかという話を経て、ゴンさん …

北北西に曇と往け 1〜2

なかなか面白かった。ところで今気づいたんだけどこのタイトルもしかして「ほくほくせいにどんといけ」って読む? シャレ? アイスランドもので親父ギャグ的ダジャレ? まあそれはそれとして、入江亜季先生のこと …

米代恭「往生際の意味を知れ!」1〜3巻

衝撃の展開続きなのか、いきあたりばったりの超展開だらけなのか。マンション最上階から彼女を抱えて飛び降りる背中を見送るのも悪くないが、途中部分は普通に面白い展開だったのでそっちの路線で分岐した並行世界のストーリーも書いてもらいたい。米代恭「往生際の意味を知れ!」1〜3巻

深夜食堂(19)

気がつけば全巻買ってるこのシリーズ。実は私のなかでは鬼平犯科帳と同じカテゴリに入っている。 なにが同じかって、なんというか、人の世の不条理が描かれているところ。まったく理想化戯画化していない…とはさす …

メンタル強め美女白川さん

空気の読めない自分大好き女だが美人なので周囲に許されているやつの話、という感じでモヤっとした。しかしメンタルが強いというのはまさにそういうことなのかもしれない。「メンタル強め美女白川さん」

カテゴリー