ツイッターだかなにかで話題になっていたのをみて読んだ。
10年間恋をしないまま35歳になってしまった実家暮らしの向井くんの話。
性別関係なくささる、という意見をみていたのでかなり身構えて読んだせいか、思ったよりは刺さらなかった。
刺さらなかった理由1:35歳で実家暮らし
今どきの世の中はみんなそうなのかもしれないが、結婚していないからといって35歳で実家暮らしという甘えたポジショニングが、まずいまいちのれなかった。
結婚するにもしないにも理由があるが、この人を一生の恋の相手と定めたので 、というお花畑脳な理由だけで結婚するのはまずなくて(他人ごとでときどき聞くが概ね破綻する)、そのほうが経済的に楽になる、生活スタイルがあっている、などなど、つまりは結婚を通じて互いの生活レベルの向上を目指すという極めて世知辛い理由が、恋だの愛だのという一時的な激情を、結婚という契約まで昇華させる後押しとなるわけだ。
女性は家政婦ではないし男性はATMではないが、たとえば賃貸マンションにすまうにしても、単身向けよりは家族向けの部屋ほうが、総額は大きくても単位面積あたりの金額は安く、また設備も充実している。
当然ながら、家事も近所付き合いも一人で背負い、病気になったら自力救済が必要だ。
ひとりものは気楽な反面、コストもリスクも高いのだ。
それが、35歳で実家暮らし、しかも親とも仲が良く、経済的にも安定していて、いっぽう仕事に大した不満や野心もないのなら、恋愛、というか、社会に対するスタンスが、当面は将来の心配もなく親の脛を齧らせてもらいながらノルマをこなしつつ親の脛を齧らせてもらっている高校生のころとなんら変わることがない。
女性も男性もこの年頃となると、いや、聡い人はもっと早くから、人生設計の一貫として恋愛やらパートナーやらを考える。それが、この年になっても「最近恋愛していないなあ」って、銃弾飛び交うガチの紛争地帯へ下調べもせず普段着のまま旅行へ来てしまった素人、という感じがある。
そりゃあ、なにが起こっても自己責任というか、同情も共感もできない。
刺さらなかった理由2:恋愛以前に友人関係もまともに築けてなさそう
35歳になっても、とすでに述べたが、ちょっと愚痴りたい気分のときに、会社の仲間以外に気軽に誘える友達がいつの間にかいなくなっていることに気づくのも遅すぎる。いやその落ち込み自体には共感できる。一緒にバカやっていた友達が、いつの間にか相手をみつけ自分に割いてもらえる時間がなくなっていき、残った友達もひとり、またひとりといなくなって、ふと気がつけば…というのは自分にも心あたりがある。
だが、いくらなんでも気づくのが遅すぎる。
男性の結婚のピークは女性と対して変わらず27歳で、男性だから遅いということはないらしい、という記事を先日読んだのだが、35歳になるまで彼はいったい何をしていたんだろうか。会社の仲間ばかりを誘い、昔の友達がどんどん周囲からいなくなっていることにそんなにも気が付かなかったのだろうか?
また、会社の仲間といっても、基本はひとりきり、しかも後輩だ。対等な仲とは言い難い。友達がいないので会社の後輩を連れ回す、という人間に、好感度があがらない。先輩後輩関係ない間柄であるとか、頼りない後輩の面倒ばかりをみていたら結果的に、というのならまた話は別なのだが、作中の描写をみる限り、友達の少ない向井くんが、後輩という立場ゆえに自分をたててくれる相手とばかり付き合っていた、というように見える。つまりは、古い友達が周囲から消えていったとき、新しい友達を作る努力をせず、年齢(入社順)という絶対に逆転できない要素で容易にマウントをとれる人間ばかりを相手に無聊を慰めていた、という感じがしてしまう。
作中で他の男の友人という感じの存在も出てくるが、それも妹の夫。心のなかで彼の言動を愚痴るくせに便利なところは利用する。
向井くんは義弟の距離感のなさがご不満のようだが、キャラ設定がどうあれ、義理の兄に気を使わない義弟などいるのだろうか? ましてや、妹が言い出したこととはいえ、他人の家に居候させてもらっている状態なのだから。
親切にしてもらったら「気を使わせてるのかな」くらいの考えには至ってもいいだろうに、そういうことはまったくない。
10年間恋を休んでいたので、という要素は特に気にしなければ普通に面白い
なお、恋愛中の相手の気持ちがわからないヤキモキ感というか、関係性が確定するまでの不安定な感じはなかなか面白かった。
向井くん視点のできごとや言動、あるいは向井くんの知らなかった周囲の行動について、あとから答え合わせがされるのは、ミステリの解決編を読んでいるようでなかなかワクワクした。
少女漫画なら女の子がドキドキしてふたりの関係が発展することになるような事件が、逆に女性の気持ちをドン引きさせていたりとかな。
周囲は「もとから勘違いだった」と言っているが、向井くんがうまくやっていればワンチャンあった、とか、その分岐点はこのあたりだった、などがあとから分かるのもなかなかよい。
ギャルゲーやら女性向け恋愛ゲームやらのコミカライズなどはこの手法でやると面白いかも…と思ったが、ターゲット層は主人公が振られることを求めてないからニーズがないな、と今書いてて気づいた。
なお、このねむようこさんの午前3時シリーズを以前読破したのだが
その時も思ったのだが、このひとの絵や雰囲気、それにストーリーのメイクセンスも好きなのだけれど、どうも人間観というか人生観が合わない気がしているので、多分続刊は買わないと思う。
しつこいようだが全体としての漫画の雰囲気は本当好きなのであまり深く考えずに読めば面白い、だけで本を閉じられると思う。しかし、よくも悪くも考えさせられる話が多いので、それがなんとも難しい…。
午前3時の危険地帯1〜2巻が、期間限定で無料で読めるみたいなのでリンクはっときます。